フランス語と言語の多様性について

毎日新聞7月30日の掲載記事をこのブログに紹介させていただきます。


21世紀は、画一性ではなく、言語の多様性の世紀となるであろう。かつてのラテン語やフランス語のように、今日では英語は最低限のコミュニケーションツールになっている。それでも英語以外の言語は溌剌としている。欧州構築のような状況下でさえも、我々はそれぞれの母国語を放棄しなかった。インドでは土着言語が力を取り戻しつつある。アメリカではスペイン語が拡大を続けている。国民のアイデンティティーや文化を表現するのだから、中国や日本ではいずれも母国語を話すのにこだわっている。今世紀、成功したいと願う若者は母国語以外に、最低二つの言語をマスターしなければならない。時代は多言語併用の民主化へと向かっており、これはグローバル化の副産物の一つであろう。

そこで21世紀という時代に、フランス語の居場所はまちがいなくある。そもそもフランス語とは知的な明晰さと結びついており、技術的に複雑な文明の中に身を置く我々はこの明晰さを必要としている。同時にフランス文化は自己の理想を実現するのに役立つ鍵であろう。フランス語を通じて最先端の科学にアクセスできるのだ。例えばフランスの基礎数学は世界的に見ても上位に位置しているので、世界の名だたる数学者はフランス語を使用している。そして、フランス語圏には優れた芸術活動を誇る国が数多くあるので、それらの国とつながる事ができるのだ。

日本の若者にとってフランス語の習得は欧州第2位の貿易国、そして近年では2位または3位の対日直接投資国へのアクセスを可能にしてくれる。500の仏企業が日本に進出し、400の日本企業がフランスで活動している。日産とルノーの例が示すように、日仏間では多くの企業提携が成功している。フランスはエアバス社やアリアンヌロケットの発展には中心的な役割を果たして来た。だからこそ、これからの企業は二つの文化を持った若手を必要としている。

フランス語の習得はフランスを代表する大学での勉学を可能にしてくれる。日本とフランスの大学の間には400近い協定が結ばれており、単位や資格の相互認定もある。世界で唯一の共同博士課程を持つのが日本とフランスだ。ここ数年、これらの手段を利用して学生や研究員の交換は増加している。最近では、日本におけるフランス語の履修者は僅かに減少しているが、他の言語に比べると健闘している。むしろ文学部よりも経営、理工、そして経済学部での履修者が増加しているのは、好ましい傾向だ。日本国内にある日仏学館やアリアンス・フランセーズ等の文化施設でも登録者は増えている。同様に、フランスでは日本語学習熱が高まっている。

このように、双方の国への興味が強まるのは好ましい傾向だ。現在、日本の大学は外国人留学生を受け入れるために様々な努力をしている。言語の多様性を維持し、外国からの留学生の受け入れを奨励するためには、習得した言語のレベルを確認する手段が不可欠であり、複数の外国語での大学入試が可能であるべきだ。また、2004年に立ち上げた中学と高校の日仏間のネットワークを活用して、学校どうしの交流を促進するべきであろう。


駐日フランス大使
ベルナール・ド・モンフェラン